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魂のリアリズム 画家 野田弘志
写実画。現実と寸分たがわぬ姿を再現する表現法である。目を中心に五感を最大限に働かせ、最新の手先の技術を駆使し、現実を別の次元であるキャンバスに写し取る。素晴らしい作品ともなると、その場の様子ばかりか、時間や匂いまで再現されており、ただ魅入るばかりである。私も抽象画よりはどちらかというと写実画の方が好みである。 だが、最近のIT技術の進展は、素人でも簡単に現実の一瞬を写し取ることを可能にした。デジカメの力を借りて。ディスプレイの画素を通し、プリンタから印字した紙の上で、人々はいとも簡単に現実の断面を鑑賞する。一見すると、画家が精魂込めた作品を、素人が労せずに再現しているようにも思える。写実画とはなんのために存在するのか、と疑問を持つ向きも多いだろう。写実画が好きな私にしても、心の片隅でそのような疑問を持たなかったと言えばうそになる。 本作は、現代日本にあって写実画の第一人者とされる野田弘志氏に焦点を当てたドキュメンタリー映画である。野田氏の製作過程や芸術・美に対する考え方などが、71分という短めの尺に凝縮されている。前にも書いた写真と写実画の違いについては、本作が雄弁に語っている。 雄弁に語ると書いたが、本作は解説のセリフをだらだら流すだけの、教則ビデオのようなものではない。むしろ逆である。台詞は極限までそぎ落とされ、静謐と思えるほどの間が全編を通して流れる。ギターやチェロによる効果音楽も合間に流れるが、野田氏の製作過程の場面では、静寂、または時計のチクタク音のみが流れる。真摯な眼差しと手先の筆さばきがアップで映され、観客は、スクリーン全体で雄弁に語られる写真と写実画の違いを受け止める。そのあたり、本作では音響の使い方が実に適切である。監督を始めとするスタッフの真摯な仕事ぶりが本作で取り上げられている内容に反映されているのが感じられる。 本作冒頭で、野田氏の代表作の数々が映し出される。本作の中心に据えられるのは『聖なるもの THE