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戌の話 [74thHeaven]
「戌はその夜何もしませんでしたよ」 「それが奇妙だというのです」 探偵は言った。刑事は首を傾げる。 「というと…?」 「侵入者を見つけたら戌は騒ぐはずです。それなのに、まったく騒がなかったということは…」 「そうか! 内部の者の犯行ということか」 「違います」 「違う? しかし」 「戌は騒ごうとしたのです。しかし騒ぐことができなかった。戌は声を奪われていたからです」 「声を奪われていた?」 「魔女によって、声を奪われていたのです!」 「ちょ、ちょっと待って下さいよ」 いかにも即物的な表情の刑事は頭をかいた。 「魔女なんて、そんな非現実的な…仮に魔女がいたとして何で戌の声を」 「戌がそれを望んだからです。戌は自ら声を差し出した…あなたのためですよ、刑事さん」 探偵が合図をすると、ドアが開いて美しい女性が入って来た。刑事は女性の顔を見てハッとした。 「彼女は…溺れかけた私の命を救ってくれた…」 「そうです。彼女はあなたへの恋しさのあまり、魔女に声を差し出し、人になることを願った。月が出ている間だけ人の姿になることができるのです。だが声は魔女にとられて出せない。だから侵入者にも騒ぐことができなかったのです」 「そうだったのか…」 「魔女は私が懲らしめておきました。声は取り戻してあります」 「探偵さん、本当にありがとうございます」 探偵と助手は二人を残して部屋を出た。 「いやー、よくこんな難事件が解決できたね」 「なぁに、基本的な事だよ。あの戌が縄張りを主張しなかったのを見て気づいたんだ、雌犬だとね。あり得ないものを除いて残ったものが真実なのさ。そうだろう?」